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第2回 「音楽学者・田辺尚雄氏による樺太アイヌ音楽の録音(2)」

 第1回に引き続き、第2回は、音楽学者・田辺尚雄氏が1923年に樺太でおこなったアイヌ音楽の調査に関連する資料について紹介します。

■田辺尚雄氏によるアイヌ音楽資料
(1)田辺氏が録音したアイヌ音楽を収録している資料
 樺太での採録調査で録音された原資料のレコード盤(ワックス円盤)は、白浜からの帰途の馬車の故障や、帰京後の関東大震災の発生などの災厄に遭遇したにもかかわらず、破損などの難を逃れ*1 、約半世紀後にはLPレコード盤に収めて刊行されています。
 
●田辺尚雄(録音・調査)、田辺秀雄(企画・監修)
 『南洋・台湾・樺太諸民族の音楽』 東芝EMI株式会社、1978年
 
 田辺氏の子息であり同じく音楽学者である田辺秀雄氏の企画・監修によって制作されたLPレコード盤です。
 樺太での録音として、白浜で録音したアイヌ音楽5曲のうち「オイナー」を除く4曲と、敷香で録音したニブヒ(レコードでは「ギリヤーク」)およびウイルタ(同「オロッコ」)の音楽の計5曲とが所収されています。ほかに、台湾の諸先住民族から1922(大正11)年に録音した計17曲、沖縄の八重山で1922(大正11)年に録音した1曲、ミクロネシアで1934(昭和9)年に録音した計16曲、が収録されています。
 現在は廃盤となっていますので、視聴するには、このレコード盤を所蔵する図書館等を探して利用を申し込むなどの方法をとることになります。
 
◆谷本一之 『アイヌ絵を聴く 変容の民族音楽誌』
 北海道大学図書刊行会、2000年 16000円+税

 田辺氏の著作ではなく、谷本一之氏によるアイヌ音楽研究の専門書ですが、巻末の付録CDに上記の田辺氏のLPレコード盤を音源とする2曲(イフンケ、ハウキ)が収められています。この本は、書店などで入手することができます。

 
(2)樺太での調査に基づく著作

田辺氏の、樺太でのアイヌ音楽調査に関する著述として、次のような文献があります。 いずれも絶版となっているので、所蔵している図書館を利用するか、古書店で探して購入する以外、現在のところ読む方法はありません。
 
●田邊尚雄 『島國の唄と踊』 磯部甲陽堂、
 1927(昭和2)年
 田辺氏はこの樺太行について、「樺太土人の音楽」という紀行文として詳しくまとめ(本稿も典拠の多くをこれに負っています)、上記の本に所収しています。ほかに「伊豆大島の民謡」「佐渡の古楽舞」「歌と踊の國―琉球」「台湾蕃人の音楽と踊」も所収しています。
 全体としては紀行文の趣で書かれているものの、当時の樺太の状況、当時の樺太アイヌに伝承されていた曲目やその音楽的内容、演奏のようす、演じ手の情報など、学術資料としても参照できる貴重な情報が多く含まれており、現在でもアイヌ音楽研究の必読書のひとつです。
 
●田邊尚雄 『日本音楽の研究』 京文社、1926(大正15)年
 田辺氏の多くの著作の中にはアイヌ音楽について部分的に言及しているものがいくつかありますが、1章を設けてまとまった記述をしているのはこの本です。106~118ページに、「〔十二〕アイヌ人の音楽と舞踊」という項目の章が掲載されています。
 前述の「樺太土人の音楽」が所収された『島國の唄と踊』の1年前に刊行されていますから、樺太での調査後にアイヌ音楽について書いたものとしてはこちらが先になります。
 
●『南洋・台湾・樺太諸民族の音楽』(東芝EMI株式会社、1978年)の 解説書 より

・田辺尚雄「台湾・樺太・南洋の旅」

前述のLPレコード盤の解説書として書きおろされた文章です。各地での採録状況の話題のほか、採録当時用いた録音機などについても述懐しています。

・田辺秀雄「解説」

LPレコード盤の監修者として、ミクロネシア・台湾・樺太・沖縄での調査概要や録音状況、録音機器各種について解説したものです。とくに、田辺氏が用いた初期の録音機については、本稿に挙げた関連文献中もっとも詳しく述べられています。
 
●田辺尚雄 『続 田辺尚雄自叙伝』 邦楽社、1982年
 晩年に記した自叙伝2冊のうちの1冊です。上記「樺太土人の音楽」の中から調査に関わる部分をハイライト的にまとめて記述している章があります。
 
(3)その他(調査ノート、写真、収集楽器など)
樺太の調査での録音資料以外の資料が、後年、次の2機関に寄贈されています。
 
◆北海道立北方民族博物館所蔵資料等
 田辺氏が樺太での調査で記したノート、撮影した写真、その他の関連資料等は、後年、子息である田辺秀雄氏から北海道立北方民族博物館(http://www.hoppohm.org/)に寄贈されています。
 これら寄贈資料の概要や写真のいくつか、および田辺氏が現地での採録の際に記したノートの内容を復刻したものを、次の文献で読むことができます。
◆篠原智花・笹倉いる美「北海道立北方民族博物館所蔵の田辺尚雄氏樺太調査関連資料について(1)」『北海道立北方民族博物館研究紀要 第16号』 北海道立北方民族博物館、2007年
◆篠原智花・笹倉いる美「北海道立北方民族博物館所蔵の田辺尚雄氏樺太調査関連資料について(2)」『北海道立北方民族博物館研究紀要 第17号』 北海道立北方民族博物館、2008年
 
◆京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター
 田辺氏は、白浜の人々から「餞別として」*2 トンコリを贈られるなどしています。
 このトンコリを含む田辺氏の膨大な収集楽器、音声資料や文献等は、子息であり音楽学者である田辺秀雄氏の収集資料とも併せ、田辺家2代にわたる研究資料として京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターに寄贈されています。
 同センターのウェブサイト(下記URL)から資料を検索し、トンコリをはじめ田辺氏の収集した楽器などの画像を見ることができます。
 
◆京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター「田邉氏寄贈コレクション」のページ: http://neptune.kcua.ac.jp/cgi-bin/kyogei/index_tanabe.cgi
*1 とくに関東大震災に際し、レコード原盤と写真原版が、いくつもの偶然が重なったおかげで罹災を免れた顛末について、著作の中でも項目を別にして記し、「不思議なる幸福の運命」などと述懐しています。
*2 田邊(1927)P.155
 
参考文献一覧
1926 田邊尚雄『日本音楽の研究』 京文社
1927 田邊尚雄「樺太土人の音楽」『島國の唄と踊』磯部甲陽堂
1978 田辺尚雄(録音・調査)、田辺秀雄(企画・監修)『南洋・台湾・樺太諸民族の音楽』東芝EMI株式会社
1981 田辺尚雄『田辺尚雄自叙伝』 邦楽社
1982 田辺尚雄『続 田辺尚雄自叙伝』 邦楽社
1982 『音楽大事典』第3巻(「田辺尚雄」の項) 平凡社
2000 谷本一之『アイヌ絵を聴く 変容の民族音楽誌』 北海道大学図書刊行会
2007 篠原智花・笹倉いる美「北海道立北方民族博物館所蔵の田邊尚雄氏樺太調査関連資料について(1)」『北海道立北方民族博物館研究紀要第16号』 北海道立北方民族博物館
2008 篠原智花・笹倉いる美「北海道立北方民族博物館所蔵の田邊尚雄氏樺太調査関連資料について(2)」『北海道立北方民族博物館研究紀要第17号』 北海道立北方民族博物館
 
★写真や著書の転載にあたり、田辺氏ご遺族よりご快諾いただきました。記して感謝申し上げます。



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