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〔山田秀三文庫の資料から〕
宗谷岬の「珊内(さんない)」
(資料番号:YF0030)
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今回紹介するのは、1963(昭和38)年5月に山田秀三氏が稚内駅からノシャップ岬及び宗谷岬を往復して地名を調査した記録(資料名「北海道 宗谷 38」、資料番号YF0030)の中にある、宗谷岬に近い「珊内(さんない)」を調査した記録の一部です。写真は海岸沿いの国道から珊内の川を山向きに写したもので、3枚の写真をパノラマのように重ねて貼り合わせ、その下に山田氏による観察や考察が書き込まれています。
「サンナイ」「サンケナイ」などの地名は、道内では積丹岬の「珊内」、初山別村の「三毛別(さんけべつ)」など、東北地方北部でも青森の三内丸山遺跡が有名な「三内」、秋田県五城目の「山内」などがあり、山田氏が早くから関心を寄せていた地名の一つです。山田氏の多年にわたる調査とそこから得られた見解については、遺稿となった『東北・アイヌ語地名の研究』(草風館、1993年)に収録された「サンナイ地名の謎─東北地名で北海道のアイヌ語地名を読んだ話」にまとめられています。 (以下、引用は全てこの文章から)
山田氏は、東北北部にある「山内」「三内」などの地名について「初めは日本語のつもりでいたが、歩いて見るとそれではどうも分らない。だがそれらはアイヌ語型のナイ(内)地名の多い土地の中にあるので、少くとも北方にあるこれらの山内、三内はアイヌ語じゃないかと考えるようになった」といいます。
山田氏は「従来下る川と直訳されて来たが何が下るのか、それだけでは何のことだか見当もつかない」と、それまでの地名解に疑問を示します。サンナイのナイ(nay)はアイヌ語で一般に沢や川を意味し、サン(san)は「下る」「(水が)流れる」「山手から浜手へ下りる」「前へ出る」といった意味があるとされていますが、山田氏は「「川上から何かが出る(下る)・川」 となるのだが、何が出るのか分らない。初めは川筋の人がコタン(部落)から浜に出て行く川かとも思ったが、そう読む根拠もない。水ならどの川でも流れ出ているのでどうも変だ」と、簡単に結論を出すことなく、どんどん考えを進めていきます。
そして、氏の地名調査の特色でもある、「できるだけ同名の地名を調べて並べた上、できるだけその現地に行ってそこの特徴を眺め、どこにそれらの共通点があるかを探すこと」を長年にわたって続けます。こうして山田氏は、調べた川のほとんどでは「どれも春の雪融け時や、秋の長雨時に大増水がどっと流れ出して洪水の名所だったとか鉄砲水が出るとかの、特別の川だった。(中略)大増水がどっと出る特別な川であったのでサンナイ、サンケナイと呼ばれたと見てよいのではなかろうか」という考え方に辿り着きます。
とはいえ、この宗谷の珊内については、「小川だから大水にはならない」との話を伝え聞いて「ここはもう少し調べないと何とも云えない」と、慎重に留保を付けています。
山田氏はこの文章を、「長い間の謎が、やっと或程度は解けたらしいのでホッとしたのであった」と結んでいます。 |
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