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こんなときは

クマの登場する物語を知りたい—物語について調べる—

  

 アイヌの口頭文芸の中で、クマやキツネが登場する物語を知りたいという問い合わせが比較的に多く寄せられます。その他にも、シマフクロウ、シャチ、テン、オオジシギ、ハスカップなどがありました。また、「アイヌラックル」や「コロポックル」などの神様が登場する物語にはどんなものがあるのか、火山の噴火や津波といった自然現象についてはどのように語られているのか、などという質問もいただきました。

 人間の生活に関わりの深いこれらは、一つの物語の中で主人公やわき役として様々なかたちで登場するので、その物語が展開する上で大きく関わっているものを中心にお答えしています。また、一口に「クマ」といっても物語によっては、人間の命を奪おうとする危害を加える話もあれば、人間に感謝して守り神になって役だってくれる話など、様々なあらすじがあるので、どれか一つの"代表的なもの"を選ぶのは困難です。

 その動物が登場する物語には、どのようなものがあるのかを知るためには、より多くのタイプの物語をなるべく網羅的に調べることのできる資料が必要となります。

区切り点

 このような場合、レファレンスの担当者がよく利用する文献は、稲田浩二・小澤俊夫(編)『日本昔話通観 第1巻 北海道(アイヌ民族)』同朋社(1989年)です(以下、『昔話通観』と略称)。これは、日本各地で伝承された民話や伝説を収録したシリーズ全29巻の一つであり、サハリン(樺太)と北海道のアイヌが伝承した593編の話型や類話を掲載しています。

 それぞれの物語は、大きく「むかし語り」「笑い話」「動物昔話」の三つに分類され、アイヌ語原文から日本語に訳されたものがそのままか、あるいは要約したものが配列されています。

 この本は直接、アイヌ語の学習に用いられたり、アイヌ語原文を愉しんだりするためのものではなく、様々な物語をモチーフや話型によって比較研究するための手がかりとなるように配慮して編集されたものです。本文に収録した物語には、それぞれの出典となった文献の名称、その物語の伝承地、伝承者に関する情報が記されています。巻末には、日本昔話との対応関係などについて記した「解説」や刊行年次順に原典を一覧できる「資料目録」が付いていることなどが特徴です。

日本昔話通観 第1巻 北海道(アイヌ民族)
『日本昔話通観 第1巻 北海道(アイヌ民族)』
 物語の表題には、動植物や自然現象の名称が含まれているものが多いので、冒頭の目次を利用して探すことも可能ですが、巻末の索引を使う方が便利です。索引は四通りもありますが、「神名と動・植物名索引」を利用します。それ以外の索引で動植物の名前から物語を引くことはできません。

 たとえば、クマの登場する物語について知りたい場合、この索引の「くま 熊」の項目を引きます。すると、69話のクマの物語が載っているページが記してあります。また、この項目のすぐ下にある「穴熊の神」「大熊」「熊の神〔キムン・カムイ〕」「小熊」などの項目でも30話以上の物語を見つけることができます。項目の最後尾に「山の神」も見よという意味の矢印があり、ここにもクマの物語が記されています。

 これは「キムン・カムイ」が「山の・神」という意味を持つからです。しかし、この項目には必ずしもクマだけでなく、「大地の神(樹木の神)」などの物語も含まれているので、日本語の索引項目が指し示すものが何であるのか、ということを常に意識しておく必要があります。

 このように『昔話通観』は、様々な物語が書かれた原典を見つけることができる大変便利な本です。しかし、この本の索引には、正確な日本語に訳されていない文献から引用されている場合があり、かねてから「伝承資料はできるだけアイヌ語原文にあたること」*1と、利用に当たっての注意点が指摘されています。

 定の動植物や自然現象に関わる物語を調べる際は、この本を道しるべとして原典にたどり着き、その中のアイヌ語と引用された日本語訳に誤りがないかどうか、また要約された時点で大事な情報が抜け落ちていないかを吟味するといった姿勢が大切です。

 また、知里真志保『知里真志保著作集 別巻Ⅰ 分類アイヌ語辞典 植物編・動物編』平凡社(1976年)はアイヌ語の専門書ですが、動物編の索引で「クマ」を引くと、149~159ページにいろいろなクマのアイヌ語名称が書かれています。このような情報も、物語に登場する動植物とアイヌの関係などを読みとくための参考になるでしょう。

 ここでは、「クマ」というキーワードで調べる簡単な方法を示しましたが、同じように北海道にいるいろいろな動植物について調べることができます。

 なお、物語を読む上で注意しなければならない点があります。それはアイヌの物語は、語り方や内容でいくつかの種類に分けられており、主人公が人間の立場で語られた話や動植物が主人公となっているものなどもあるので、その動物が出てくる物語の特徴を理解することも大切です。

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 その他に、『昔話通観』に掲載されていない物語があることに留意する必要があります。特に、この本の刊行後に多くの物語が刊行されており、それらにはアイヌ語の原文と日本語訳が併記されたものが多く、物語について調べる点でも有益なものが増えつつあります。ここでは比較的に多くの物語を掲載している本を以下に記します。(末尾の〈 〉内の数字は、その本に掲載されている物語の数を表します)

●萱野茂
 『カムイユカと昔話』小学館(1988年)〈51編〉
●中川裕(校訂)・大塚一美(編訳)
 『キナラブック口伝 アイヌ民話全集』北海道出版企画センター(1990年)〈29編〉
●ニコライ・ネフスキー(訳:魚井一由)
 『アイヌ・フォークロア』北海道出版企画センター(1991年)〈23編〉
●萱野茂
 『萱野茂のアイヌ神話集成』全10巻、ビクターエンタテインメント(1998年)、CD付き 〈40編〉
●久保寺逸彦編
 『アイヌの神謡』草風館(2004年)〈124編〉

(この本は、久保寺逸彦『アイヌ叙事詩 神謡・聖伝の研究』岩波書店(1977年)に掲載された物語の現代語訳版です。ほとんどの物語の主人公は動植物であり、その名前が目次の題名に入っています。)
●『四宅ヤエの伝承』刊行会編
 『冨水慶一採録 四宅ヤエの伝承 歌謡・散文編』『四宅ヤエの伝承』刊行会(2007年)、CD付き〈13編〉


 また、やや専門的な資料ですが、北海道教育委員会が毎年発行しているアイヌ文化関連の報告書などにも物語が載っているものがあります。さらにはアイヌ関連機関や大学などの刊行物にも目配りして、『昔話通観』の情報を補うことが大切です。

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 なお、当センターのアイヌ文化紹介小冊子『ポン カンピソ6 ウエネウサ 口頭文芸』(2000年)では、アイヌの物語のジャンルの特徴と参考文献などを紹介しています。また、物語に登場する動植物の神(カムイ)についての理解も必要なので、同シリーズ5の「イノミ 祈る」を参考にするとよいでしょう。

 なお、現在は『日本昔話通観 第1巻 北海道(アイヌ民族)』は絶版になっており、その他に紹介した本などにも、絶版になっていたり高価なものもあるので、図書館にお問い合わせのうえ、ご利用ください。

※1 米田(本田)優子「アイヌ農耕史研究にみられる伝承利用の問題点─穀物の起源説話に関する検討を中心に─」『北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要』第1号(1995年)

(研究職員 大谷洋一)



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