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こんにちは! 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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今回は、アイヌ語の発音と、その表記のしかたについてお話しします。
少し前の話になりますが、
釧路市の阿寒湖畔にアイヌの伝統文化を発信する施設「阿寒湖アイヌシアター イコロ」がオープンしました。
「イコロ」という名前は、アイヌ語で「宝」を意味する「イコロ」にもとづいています。
実際の看板やパンフレットなどには、小文字(ちょうど「パンフレット」の「ッ」のような大きさです。
)で書かれています。
「イコロ」を、アイヌ語の発音におおよそ従ったかたちのローマ字で書くと、
「ikor」となります。日本語の「ロ」は、ローマ字で書けば「ro」で、
子音「r」に母音「o」が付いていますが、「イコロ」の「ロ」は、子音「r」だけで、
母音が付いていません。
アイヌ語の発音の中には、子音の後ろに母音が付かない音があるので、
これをきちんと区別しておかないと、言葉の意味を取り違えることがあります。
アイヌ語の発音では、母音は「a」「i」「u」「e」「o」で、子音に「k」「s」などがあります。
ここだけ見ていると、日本語とあまり違わないように思えるかもしれません。
けれども、「トゥ」(tu)、イェ(ye)など、日本語にはない音もたくさんあります。
(ちなみに、トゥは、英語の「トゥナイト」の「トゥ」、イェは、
英語の「イェスタデイ」の「イェ」と同じような発音です。)
「コロ」の「ロ」のような、子音の後ろに母音の付かない音というのも、日本語にはない音です。
現代の日本語の五十音は、「ん」を除いて、全て、母音のみ(アイウエオ)か、
または「子音+母音」(カキクケコなど)で成り立っています。しかし世界には、英語をはじめ、
子音の後に母音が付かない音を持つ言語がたくさんあります。
アイヌ語にも、後ろに母音が付かない、
「プ(p)」「ッ(t)」「ク(k)」「ム(m)」「シ(s)」やこの「r」などの音がよくあります。
母音が付く音と、付かない音で、たいていの場合は言葉の意味も変わります。
例えば、「ker」(ケレ)は「靴」ですが、「kere」(ケレ)は「~にさわる/触れる」という意味です。
これは極端な例だとしても、「kisar」(キサラ)は「耳」ですが、
「kisara」(キサラ)だと「~の耳」という、
誰か(何か)に所属していることを意味するかたち(所属形といいます)になる、
という例はたくさんあります。
ちなみに、商品の名前などにもよく出てくる、
「良い」「美しい」といった意味の「ピリカ」(pirka)の「リ」、
動物のシカを意味する「ユク」(yuk)の「ク」なども、母音が付かない音の例です。
アイヌの「物語」や「神話」といった意味で「ユーカラ」という言葉が使われることがありますが、
アイヌ語の発音に従えば、「ユカラ」(yukar)です。
最後に、この「イコロ」の「ロ」などの音は、どんなふうに発音するのでしょうか。
言葉だけで説明するのは難しいのですが、かなり大雑把なことを言えば、
例えば「イコロ」は、さいごの「ロ」だけ弱く言ってみてください。
実際のアイヌ語を聞いてみると、「r」のところは、アイヌ語を聞き慣れない人には、弱く、
ぼやけた感じで、「イコロ」や「ユカル」のように聞こえることもあります。
・・・やはり実際に聞いていただけるのが一番ですね。
前回も紹介した「ほっかいどうアイヌ語アーカイブ」の「アイヌ語入門」のページでは、語り手による単語や短い文などの発音を実際に聞いていただくことができます。「木の皮」(ニカプ)、「雲」(ニシクル)など、子音だけの音が入っている語もありますので、どうか聞いてみてください。
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