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【第3回】  2012(平成24)年6月22日配信

あちこちの「知床」  ~アイヌ語地名の世界(その1)~



    こんにちは!  北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
    もうすぐ夏がやって来ます!皆さんは、 世界自然遺産に登録された「知床」に行ったことがありますか? これからの知床半島は、碧い水と深い緑が鮮やかな、たいへんよい季節を迎えます。

  この「知床」も、アイヌ語に由来する地名です。 最近の旅行雑誌やテレビ番組などでもそう紹介されることが増えてきました。 ただ、そのアイヌ語での意味については、「地の果て」を意味するといった、 少しロマンチックな説明になっていることが多いようです。
  古くは、江戸時代の貴重な記録とされる『蝦夷地名考并里程記』(えぞちめいこうならびにりていき、 1824年)が、「シレトコ」について、「嶋の果てと訳す」と書いていますし、 地図を見ると、知床半島はいかにも北海道の東の端にあるように見えます。 一般には"秘境"というイメージも強いようですから、 「地の果て」という説明が広まっているのかもしれません。

  アイヌ語地名研究の第一人者である山田秀三(やまだ  ひでぞう)氏らの研究によれば、 知床半島の「知床」は、シ・エトまたはシ・エトコ(sir-etok/sir-etoko)で、 「地(の)・突端部」すなわち岬の意味だとされています。 特に「果て」といった意味は無いようです。 (半角の「」や「」は、前回ご紹介した子音で終わる音です。)

  sir(シ)は、いろいろな意味がありますが、 地名で用いられる場合は「陸地(大地)」「山」といった意味のことが多いようです。 「利尻島」の「シリ」、 余市町にある「シリパ岬」の「シリ」などはこの「sir」に由来するとされています。 また、日高山脈にそびえる「幌尻岳」の「シリ」など、山の名に付いている例もよく見られます。
  etok(エト )は、ここでは「突端部」「突出部」といった意味だとされています。 「~の突端部」というふうに、何かに所属する意味(所属形)で用いられると、 etoko(エトコ)となります。sir-etok(o)(シレトコ)で、陸地の突端部、 つまり岬のような地形を意味することになります。

  シレトコは、古い記録によれば、知床半島全体を指す地名ではなかったようです。 山田氏や地元の方々の最近の調査によれば、半島の先端、 知床岬の少し東側の小さい岬のあたりの地名だったのではないか、とされています。
  また、同じような地形には同じような地名が付けられていることがあります。 この知床半島以外にも、道北の礼文島や、サハリン(樺太)、 青森県下北半島などに「シレトコ」と呼ばれる岬があります。

  海に突き出た岬ではない「知床」の例が、胆振地方の白老町にあります。 JR白老駅の西隣に萩野(はぎの)駅がありますが、昔は「知床」という駅名でした。 この付近は低湿地が広がっていて、そこに背後の山地から小高い丘陵が突き出すように延びており、 その丘陵の先端のところが「シレトコ」と呼ばれたのではないかと言われています。

  あちこちに「知床」があって、それらを一つ一つ見ていくと、 そこから「シレトコ」という地名の意味や特徴がわかってくる──そういう丹念な調査をとおして、 アイヌ語にもとづく地名の世界を知ることができるのだと思います。

  さて、今回、こうして知床とその地名の話をしましたが、来たる7月7日(土)から、 当研究センターと、斜里町立知床博物館との共催により、知床半島の西側の玄関口・斜里町で、 山田秀三氏のアイヌ語地名調査の資料を紹介する企画展「アイヌ語地名を歩く」を開催します。
  この企画展では、斜里町や知床半島各地の地名を山田氏が調査した、 写真や地図、ノートなどをパネルで展示しながら、アイヌ語地名の世界を紹介しますので、 ぜひご覧になってください。

◎企画展「アイヌ語地名を歩く-山田秀三の地名研究から-2012・夏  斜里/知床」
  ・開催日:7月7日(土)~8月26日(日)
  ・開催場所:斜里町立知床博物館


【参考】
  • 北海道立アイヌ民族文化研究センター発行 『アイヌ文化紹介小冊子 ポン カンピソ 第9巻 地名』
  • http://ainu-center.hm.pref.hokkaido.lg.jp/HacrcHpImage/05/pdf/05_005_09.pdf
    紙面はホームページでも公開中です。ご希望があれば、冊子をお送りすることもできま す。詳しくは当研究センターまでお問い合わせください。

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