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新年おめでとうございます! 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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「新年おめでとうございます」とご挨拶しましたが、
アイヌ語ではどう表現するのでしょうか。
今回は、"新年の挨拶"をアイヌ語の辞典や伝承者自身が書き残した記録などから、
いくつかご紹介します(2013年1月4日付の記事)。
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○『アシリパ アウク ワ オンカミアンナ』 → 「新年を迎えて拝礼しましょう = 新年おめでとう」
現在のアイヌ語研究の第一人者である田村すず子氏が、
日高の沙流(さる)地方の伝承者から聞き取りしたアイヌ語をもとに編さんした辞書
『アイヌ語沙流方言辞典』の「アシリパ 」(新しい・年=新年)という見出しの中で紹介されています。
「アシリ 」は「新しい」、「パ」は「年」という意味で、
「アシリパ 」は「新年」という意味になります。
「アウク 」は「私たちが~をとる」、「ワ」は「~して」、
「オンカミアン」は「私達が拝礼する」、
「ナ」は、ここでは文の末尾で「~しましょう」というぐらいの意味を添える言葉です。
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○『アシリパ オッタ(オロ タ) ウウェランカラプ・アン ペ ネ ナー』 → 「新しい年(正月)にご挨拶をするものですよ」
同じ日高の沙流地方、平取(びらとり)町の二風谷(にぶたに)に生まれ育ち、
ご自身がアイヌ語・アイヌ文化の伝承者でもあった故萱野(かやの)茂氏が、
自分の知っている言葉や地域の古老から聞き取りしたアイヌ語をもとに編さんした辞書
『萱野茂のアイヌ語辞典』に載っています。
「アシリパ 」(新年、正月)という見出しで紹介されている言い方です。
「オッタ(オロ タ)」は「~の時に」「~の場所で」という意味です。
「アシリパ オッタ」で、
「正月・のところ・で」つまり「新年にあたり…」といった意味になります。
「ウウェランカラプ・アン」は「私達が・互いにあいさつし合う」という意味ですが、
昔の作法によるあらたまった挨拶をするときに用いられる言葉だと言われています。
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○『アシリバ オッタ イランカラプ イタキ』 → 「年賀状」
釧路地方の伝承者である故山本多助氏が知人たちと発行していた雑誌に、
山本氏がアイヌ語で書いた年賀状が載っています。
山本氏は、年賀状のことを「アシリバ オッタ イランカラプ イタキ」と書いています。
「アシリバ」は「アシリパ」と同じ意味、「イランカラプ 」は「(人に)あいさつする」、
「イタキ」はここでは「~の言葉」のような意味です。
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○『アシリパ アウク ワ アコオンカミ』(日高の沙流地方の語り手)
『アシリパ エク ワ アン フム ピリカ』(帯広地方の語り手)
→ 「新年おめでとう」
今から50年ほど昔に、多くの言語学者が共同で、
当時はまだ各地に健在だったアイヌ語の語り手から、
それぞれの地域のアイヌ語を調査して編さんされた専門書『アイヌ語方言辞典』の中に、
「新年おめでとう」というアイヌ語の表現として載っています。
沙流地方の語り手による言葉は、
上で紹介した『アイヌ語沙流方言辞典』と、ほぼ同じで、
「アコオンカミ」は「私は~に拝礼する」という意味です。
帯広地方の語り手の言葉にある「フム 」は「音」「感じ」、
「ピリカ 」は「よい」「美しい」といった意味です。
アイヌ語では、時や季節を表す言葉の後ろに、
「いる、ある、存在する」などを意味する「アン」という言葉を付けると、
「~になる」という意味になります。例えば、
パイカラ(春)に「アン」を付けて「パイカラ アン」は「春が来る(来た)」となります。
実際に、
新年の挨拶を「アシリパ アン ヒネ アコオンカミ」
(新年・になる・して・私たちは拝礼します)と書いている例もあります。
明治以後の同化政策のもとで、
アイヌ語は、アイヌの人びと自身の日常生活からも急速に姿を消していきました。
このため、
子どもの頃からアイヌ語を聞いて育ったという世代はたいへん少なくなっています。
そうした中でも、身近な暮らしの中で、アイヌ語を大事にしてきた人や、
自らペンをとって記録する人たちもいました。
今回紹介した辞典や用例は、
そうした古老・伝承者の言葉を記録したものです。
近年になって、アイヌ語を取りまく状況が大きく変化し、
学習や継承に向けた取り組みが盛んになりつつあります。
アイヌ語の教材や辞書なども刊行されるようになり、
自らアイヌ語を学習する人たちも少しずつ増えてきました。
そうした人たちの間では、ふだんの手紙やメール、年賀状などに、
アイヌ語を使ってやりとりする例も増えているようです。
今はまだ、アイヌ語を自分で学び・使おうとする人の数は、
決して多いとは言えませんが、やがて、
アイヌ語が今よりも広く用いられる言葉になれば…と思います。
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