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こんにちは。 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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今年の冬は、各地で厳しい寒さが続いていますね。
冬のことをアイヌ語で「マタ」(mata)と言います。アイヌ語には地域によって方言による違いがありますが、この語は、北海道のほぼ全ての地域で共通しているようです。
今回は、「マタ」(冬)という言葉にちなんだアイヌ語の地名について紹介します。
三浦綾子氏の小説でも有名になった、上川盆地の北にある塩狩(しおかり)峠。
その北側、名寄(なよろ)、士別(しべつ)方面から剣淵(けんぶち)、和寒(わっさむ)を経てこの峠の登りにさしかかる付近は、現在、国道40号線とJRの宗谷線とが並んで走っています。その脇を流れる、剣淵川の支流の名前は、「マタルクシュケネブチ川」といいます。アイヌ語地名研究者の山田秀三(やまだひでぞう)氏によれば、「マタルクシュ」は「マタ・ル・クシ 」(mata・ru・kus)=「冬・道・(~を)通る」で、「冬道が通っている剣淵川」というアイヌ語に由来するとされています。
また、和寒市街の南西で、マタルクシュケネブチ川から別れて西側に流れていく方が、「サクルクシュケネブチ川」だったとされています。こちらは「サク・ル・クシ 」(sak・ru・kus)=「夏・道・(~を)通る」で、「夏の道が通っている剣淵川」に由来するとされています。
徒歩が主な交通手段だった時代、山を越える道筋は、樹木の生い繁る夏と、小さなデコボコや細かな沢の流れなどが雪の下に隠れてしまう冬とでは、自ずと、通る道筋が異なることがあったと言われています。「冬の道」「夏の道」を意味するアイヌ語に由来する地名は、そうした、季節によって通り道の異なる、昔の交通路のすがたを伝えています。
なお、山田氏によれば、この剣淵川の上流のように冬道と夏道が並んでいる場合、「現在の交通路は冬道の方の筋を選んでいる場合が多い」そうです。その理由について山田氏は、積雪時の交通路であった冬道のほうが「障害物が埋もれていて最短距離を通っていたからであろうか」と推測しています。(引用:山田秀三著『北海道の地名』草風館、平成12年)
こうした川筋や昔の交通路の地名の中には、あまり記録に残らなかったために、残念ながら現在では、わかりにくくなったところもたくさんあるようです。それでも、山あいの地域を見ていくと、昔の交通路を伝える地名に出逢うことができます。例えば、旭川市とその西隣になる幌加内(ほろかない)町の境にある山の一つに「冬路山(ふゆじやま)」という山があります。この山の南側に、石狩川の一支流である江丹別(えたんべつ)川の、更にその支流が流れていますが、この川は「マタルクシペッ 」と呼ばれていたと言われています。
北海道の地名の多くは、アイヌ語に由来しています。アイヌ語に由来する地名について少しずつでも知っていることが増えると、その地名のすがたや、地域のなりたちについて今までよりも興味深く知ることができるのではないでしょうか。
来たる2月2日(土)から、流氷のオホーツク海を望む網走市・天都山(てんとざん)の上にある、北海道立北方民族博物館で、山田秀三氏のアイヌ語地名調査の資料を紹介する企画展「アイヌ語地名を歩く」を開催します。
この企画展では、網走市などオホーツク管内の地名を山田氏が調査した、写真や地図、ノートなどをパネルで展示しながら、アイヌ語地名の世界を紹介します。ぜひお越しください。
◎企画展「アイヌ語地名を歩く-山田秀三の地名研究から-2013・冬 網走/オホーツク」
・開催日:2月2日(土)~4月7日(日)
・開催場所:北海道立北方民族博物館(網走市字潮見309-1)
・2月2日(土)に展示解説講座、9日(土)には札幌大学教授 本田優子氏による講演会
「アイヌ文化と環境」、16日(土)にはアイヌ語地名研究会伊藤せいち氏による講演会
「アイヌ語地名研究と山田秀三」も開催します。
▼詳しくはこちらをご覧ください。
http://ainu-center.hm.pref.hokkaido.lg.jp/06_001_H24_01.htm
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