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【第15回】  2013(平成25)年5月31日配信

鳥たちの歌



    こんにちは! 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
    去年から今年にかけての冬は、北海道でもいつになく厳しかったですね。そのような冬の後、野鳥のさえずりを耳にしてようやく春を感じるかたもいらっしゃることでしょう。

 生き物の鳴き声を、人間の言葉にあてはめて聞くことを「聞きなし」と言います。聞きなしは、いろいろな文化で見受けられます。例えば日本語では、ウグイスの声の「ホーホケキョ(法華経)」、ホトトギスの「テッペンカケタカ」などがよく知られています。
 アイヌ文化の中でも、鳥や虫の声の聞きなしが伝わっています。例えば、アオバズクの声の「ホチコク」、セミの声の「ヤキ」が、そのままアイヌ語でのアオバズクやセミを表す単語にもなっています。
 今回は、アイヌ文化の中に見られる、鳥の鳴き声の「聞きなし」について紹介します。

 鳥の鳴き声、とくにさえずりは鳥の種類ごとに特徴的な鳴き方があり、歌のようにも聞こえますね。アイヌ文化の中では、聞きなしの言葉だけでなく、短いメロディを伴って伝承されているものがあります。
 例として、ヒバリの声の聞きなしを聴いてみましょう。
http://ainugo.hm.pref.hokkaido.lg.jp/generalMokuji.aspx?SeiriNum=20061112
(当研究センター「ほっかいどうアイヌ語アーカイブ」で公開している資料にリンクしています。「閲覧/視聴」の欄にある青い▲印をクリックすると、音声を聴くことができます。)

   「タカ タカ チウロ チウロ…」と始まるこの聞きなしを歌っているのは、アイヌ語の研究者で北海道大学で教鞭をとっていた故・知里真志保(ちり ましほ)さんと妻の萩中美枝さんです。萩中さんによれば、知里さんが生まれ故郷である胆振(いぶり)の幌別(ほろべつ)で採録した「ヒバリの歌」を、大学の授業で資料として使うために二人で歌ったものだということです。

 同じヒバリの歌でも、地域や人によって言葉やメロディが違うこともあります。上に紹介した録音では、ちょっとのんびりしたのどかな調子に聞こえるかもしれませんが、別の地域では、天高く舞い上がった後に急降下するヒバリの様子として、早口言葉のように速く何度も繰り返して歌うものだ、と言う人もいます。

 聞きなしの歌では、鳴き声そのものを表わした言葉のほかに、まとまった意味のある言葉も歌われています。
 たとえば、春の野山でよく耳にするカッコウの鳴き声。日本語ではよく「カッコーカッコー」などと表現したり歌われたりしていますね。アイヌ語でもそれと似た音で「kakkokkakkok(カッコク カッコク)」と表現されます。
 この「カッコク カッコク」に続けて「シコッペッ チェプ サク(シコッ川に魚がいない)
 トゥシペッ チェプ オッ(トゥシ川に魚がいる)」という言葉が、静内(しずない)地方の伝承として記録されています。他にも、たとえば十勝の芽室太(めむろぶと)での記録として、カッコウのカムイは川に鱒(ます)が上ってきたのを人間に知らせている、という伝承もあります。

 また、北海道では夏に林や野山で見かけることも増えたとされるキジバト。その鳴き声は、日本語では「デデーッポッポー」などと表現されることが多いようです。
 アイヌ語では、キジバトのことを、「クスウェプ」(地域によっては「クスイェプ」)と呼びます。いずれもキジバトの鳴き声の聞きなしに由来する単語です。

 例えば千歳(ちとせ)地方の伝承では、キジバトは「クスウェプ トイタ/フチ ワッカ タ/カッケマッ スケ/ポン トノ イペ」と歌っているとされています。これは、「キジバトが畑を耕す/おばあちゃんが水を汲む/お母さんが料理する/若殿様が食事する」という内容の歌詞になっています。地域や人によっては「フチ ワッカ タ」「クスウェプ トゥトゥ」などの言葉をずっと繰り返して歌う場合もあります。

 こうしたことを知ってキジバトの声を改めて聴いてみると、だんだん「♪クースウェプトイター」「♪フーチ ワッカ ター」などのように聴こえてきませんか?。次のページから「キジバト」を検索して、実際の鳴き声を聴いて確かめてみてください。
 http://jyoho.hokkaido-np.co.jp/wildbird/
(北海道新聞野生生物基金「北海道の野鳥データベース」にリンクしています)

 これからの温かな季節に、屋外でのレジャーを計画している方もいらっしゃると思います。北海道の野や山で遊ぶ最中、ふと鳥の鳴き声を耳にしたとき、アイヌ文化ではどんなふうに聞きなして歌うのだろうか――と、新しい興味を感じていただけるきっかけとなれば幸いです。

(このコラムの執筆に当たり参考にした文献など)
▼知里真志保『知里真志保著作集2』(1973年、平凡社)
▼『アイヌ伝統音楽』(1965年、日本放送出版協会)
▼更科源蔵『アイヌ文学の生活誌』(1973年、日本放送出版協会)
▼中川裕・中本ムツ子『カムイユカラでアイヌ語を学ぶ』(2007年、白水社)
▼北海道新聞野生生物基金「北海道の野鳥データベース」
 http://jyoho.hokkaido-np.co.jp/wildbird/


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