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こんにちは! 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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いよいよ冬将軍が到来しました。仲間や家族と一緒に鍋を囲んで身体の芯から温まる食事も楽しみな季節ですね。鍋といえば、北海道ではサケは欠かせない具材の一つです。
サケのことを、アイヌ語では「神・魚」を意味する「カムイチェプ(kamuycep)」や「秋・魚」を意味する「チュクチェプ(cukcep)」などと言います。単純に「魚」を意味する「チェプ」だけで言い表すこともありますが、その場合は、たとえば口承文芸の中では「川を群れなしてのぼる大きな魚」といった言い方をするので、それがサケを指していることがわかります。
サケが群れをなして川をのぼる様子は、アイヌの口承文芸の中に、しばしば描かれています。次のような言い方は、神謡と呼ばれるジャンルの口承文芸で多く見られる表現の例です。
カンナ チェプ ルプ スクシ チレ
(上の魚の群れは天日で焦げ)
ポクナ チェプ ルプ スマ シル
(下の魚の群れは石で擦り)
サケがびっしりと川を埋めつくし、水面(みなも)を泳ぐサケは背中を陽に焦がすほどで、川底を泳ぐサケはお腹を石で擦るほどだと言い表しています。
別の表現では、こんなものもあります。登別出身のアイヌ・知里幸恵さんが書いた『アイヌ神謡集』に載っているものです(日本語訳も知里さんによるものです)。
カムイチェプタラ ピリカ レラ ピリカ ワッカ
(鮭どもは 清い風、清い水に)
エヤイテムカ ウェンミナハウ ウェンシノッハウ
(気を快復して、大さわぎ大笑いして遊び)
ペプニタラ コロ ヘメシパ シリ チョポパッキ
(ながら、パチャパチャと上がって来た)
清流をサケが大群でのぼって来る情景が生き生きと目に浮かぶ表現だと思います。
一方で、サケが来なくなってしまった事情を述べるものもあります。
人間がチェプコロカムイ(魚を司る神)を祭らなかったためにそのカムイが怒って魚を出さなかったり、人間や悪魔が川を汚してしまったためにサケの群れが泣きながら引き返して去ってしまったりすることが語られます。
アイヌの神謡は、物語の内容や語りのメロディーを楽しむものが多いですが、泣きながら引き返していったサケのように、生き物の視点から人間に訴えかけてくる教訓が含まれているものもあるのです。
石狩鍋などを食べる、そんなひとときに思い浮かべていただければ、と思います。
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