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こんにちは。 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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現在、北海道立近代美術館で、「アイヌ工芸品展 AINU ART~風のかたりべ~」が開催されています。この展覧会では、現代のアイヌの作家の作品を中心に、19世紀~20世紀に作られた伝統的なアイヌ工芸品や、貴重な木彫り熊のコレクションなどを展示し、時代とともにあるアイヌ文化の一面を紹介しています。
今回と次回は、この展覧会の開催にちなんで、アイヌの伝統的な民具を取り上げます。
アイヌの民具に、工芸品としてもすぐれたものが多いことは、早くから知られていました。例えば、幕末の文献「北辺要話(ほくへんようわ)」に、シャリ(斜里地方)のアイヌの人びとについて、男性は「彫刻の細工に精妙」であり、女性はとても良い「アツシ」を織る、この地域ほどのものは他では作られていない、という記述があります。(この資料は、昨年7月に開催した当研究センター主催の講演会で、北海道大学の谷本晃久(たにもと・あきひさ)先生が紹介して下さいました。なお、「北辺要話」は、『北方史史料集成第二巻』という本に収録されています。)
ここでいう「彫刻」とは、木彫品のことで、お盆や煙草入れ、マキリ(小刀)の鞘(さや)などに、「精妙」な彫刻を施した品が、現代にも伝えられています。
「アツシ」とは、"アットゥシ"と呼ばれる樹皮衣のことで、「オヒョウ」の木の皮(内皮)から繊維をとって反物に編んだもの、またはそれを素材にしたアイヌの伝統的な衣服のことです。当時、"アットウシ"は、労働着として、アイヌの社会ばかりでなく本州以南にも流通していたことが明らかにされつつあります。
上記の文献で、斜里のアイヌの人びとの特徴について、男性が彫刻に巧みであり、女性はとても良い樹皮衣を作る、と書いているのは、当時すでに、アイヌの人びとによる木彫品や樹皮衣が和人の社会にも知られていたことをうかがわせるものです。
ところで、アイヌの木彫りの工芸品として比較的知られているのは、木彫りのクマではないでしょうか。サケをくわえたクマをかたどった木彫りをイメージされる方も多いと思います。
このような木彫りのクマが多く作られるようになったのは、大正時代からだとされています。
サハリン(樺太)ではクマなどをかたどった木彫りが古くから見られますが、これは主に儀式のために作られていたものです。北海道では、動物や人間の姿をかたどり、置きものとして飾る木彫りは、昔は作られなかったようです。このようなものを作ると「魂(たましい)」が宿るとされ、もしもそれが悪い魂であった場合、人間に害をもたらすおそれがある、という理由だったと言われています。
現在、工芸品として見られる木彫りのクマは、1920年代ごろに八雲(やくも)や旭川で作られるようになりました。アイヌの人びとが副業や工芸作品として自分たちの技術を活かして木彫りを作り、各地に広まったと考えられています。今では、クマの木彫りにも、たいへん精巧なもの、ユニークなデザインが魅力的なものなど、いろいろな作品を見ることができます。
アイヌ民族の木彫りは、古くからの伝統的な工芸を軸に、明治・大正・昭和…移りゆく時代の中で、工夫され加えられていった要素を持ちながら、現在も、各地の作家がそれぞれの技術と創意をふるって、様々な作品を生み出しています。
◎アイヌ工芸展「AINU ART ~風のかたりべ~」
・開催期間:3月24日(日)まで(月曜休館)
・開催場所:北海道立近代美術館(札幌市中央区北1条西17丁目)
【3月の関連行事】
・3月2日(土)11時~:アーティストトーク
14時~:ギャラリー・トーク
23日(土)10時及び13時~:アイヌ文化にふれるワークショップ
14時~:作品解説
▼詳しくはこちら(展覧会ホームページ)をご覧ください。
http://event.hokkaido-np.co.jp/ainuart/
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