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こんにちは。 北海道立アイヌ民族文化研究センターです。
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皆さんの中には、各地にある博物館などで、アイヌの伝統的な民具をご覧になったことがある方も多いと思います。木彫品や衣服など、いろいろな民具の中で、漆(うるし)塗りのお椀や容器をご覧になったことがあるでしょうか。
今回は、これらの漆塗りの用具(漆器)について取り上げます。
漆器の特徴の一つとして、ほぼ全てが本州以南からの移入品だということが挙げられます。中には、道南の松前などで漆を塗ったものもあると思われますが、漆塗りの技術は本州のものですから、アイヌの民具の中では、漆器は移入品だと言えます。
実際に各地に残されている漆器を見ていくと、アイヌの人々が儀式に使う篦(へら)などには、同じサイズのものがまとまって残されている例があり、アイヌの社会に向けた商品として作られたと考えられたものもあります。
一方で、アイヌの伝統的な儀式では天目台(てんもくだい)と椀とをセットにして用いますが、これは本州以南での漆器の使い方とは異なる組み合わせです。また、アイヌが作った木彫りのクマや篦に漆を塗っている例もあるなど、本州から単純に移入されたというわけでもないようです。
二つめに、漆器には、椀などの、食器として日常的に用られたもののほか、カムイに祈りごとをするときにお酒を捧げる篦など、儀式のときに用いるもの(祭具)が多いことが挙げられます。漆器は家宝として扱われるものも多く、これらの家宝をしまっておく容器にも漆器が用いられました。
このようにさまざまな特徴を持つ漆器ですが、各地の博物館で多数所蔵されている一方で、それらが作られた時期や、アイヌ語の名称、用途や使用法などの、基本的な情報については、きわめて乏しいのが現状です。このため、多くの博物館では、「アイヌの漆器」と一括りにされたり、名称の表示についても、アイヌ語であったり日本語であったりとまちまちです。アイヌ語の名称を用いる場合も、その地域の呼び名ではなく文献から転記したに過ぎないことが多く見られます。
近年、江戸時代における北海道と本州の交易に関する研究や、各地の遺跡から発掘される漆器の調査が進められるようになりました。その中で、アイヌの民具として用いられた漆器についても、どこで作られ、どのようなルートでアイヌにもたらされたのか、少しずつ研究が進められつつあります。また、実際に各地に残されている漆器について調べ、地域差などを明らかにしようとする研究も始まっています。
当研究センターでも、ここ数年、漆器についての調査を進め、道内の博物館が所蔵する漆器のデータを網羅的に収集し整理する作業や、東北・北陸の漆器の産地での調査などを重ねてきました。これらの研究の成果についても、機会があれば、このコラムで改めてご紹介したいと思います。
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