研究紀要第10号 要旨
【論文】 知里幸恵『アイヌ神謡集』の難読箇所と特異な言語事例をめぐって (佐藤知己)
【論文】 アイヌ口承文芸にあらわれる衣服について (本田優子)
【研究ノート】 1960年代、古老の音の記憶-フィールドノートの落穂ひろい(Ⅱ) (谷本一之)
【調査報告】 松島トミさんの口承文芸 6 (大谷洋一)
【調査報告】 旭川地方におけるタ
プ
カ
ラ
について-杉村満さんの伝承より- (甲地利恵)
【資料紹介】 V.N.ヴァシーリエフ 「エゾおよびサハリン島アイヌ紀行」 (訳:荻原眞子)
【資料紹介】 島根県美保関町の北方民族関係資料 (平野芳英、山崎幸治、北原次郎太)
〔各論文の要旨〕
【論文】
知里幸恵『アイヌ神謡集』の難読箇所と特異な言語事例をめぐって
(佐藤知己)
〔要旨〕
知里幸恵『アイヌ神謡集』には印刷ミスが非常に多く、そのままではアイヌ語として解釈ができない箇所が少なくありません。この論文では、eramuka patek kaneとtukan wa ankurという表現について、言語学的根拠に基づいてこれらが印刷ミスによるものと推定し、正しいと思われる解釈を提示しました。また、『アイヌ神謡集』が、他の方言とは異なる言語的特徴を示すことを、特に再帰接頭辞 si- の用法に関して実証的に明らかにしました。
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【論文】
アイヌ口承文芸にあらわれる衣服について (本田優子)
〔要旨〕
アイヌ口承文芸資料のうち現在(2004年2月)までに公刊されたアイヌ語テキストを資料として、そこにあらわれる衣服の種類やあらわれ方の特徴などを整理し考察を行ったものです。資料となったテキストは多くが胆振・日高地方のものである等の制約に注意を払う必要がありますが、検討の結果、口承文芸のジャンルによって物語の中での衣服に関わる描写には差異が見られること、概して英雄叙事詩に大量かつ細やかな描写が見られること、物語の中で描写される衣服の種類などには男女差が見られることなどの興味深い点が浮かんできました。
また、筆者がこのかん関心を持って調べてきた、アイヌの伝統的な衣服の中で代表的な位置を占めるとされるアットゥ
シについて着目してみましたが、今回検討した限りでは、アットゥシを身につけた象徴的な登場人物としてアイヌラックルを挙げることができる一方で、人間の日常衣としてのアットゥシは、英雄叙事詩、神謡、散文説話の何れにもほとんど認めらませんでした。
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【研究ノート】
1960年代、古老の音の記憶 -フィールドノートの落穂ひろい(Ⅱ)
(谷本一之)
〔要旨〕
前号に引続き、1961(昭和36)~1983(昭和38)年度にかけてNHK札幌放送局が道内各地で行ったアイヌの伝統音楽の調査事業に従事した際に、その合い間に記録したノートからの報告です。
今回は、サハリン(樺太)出身の西平うめさんから、トンコリ(五弦琴)の演奏曲目などに関して聴き取りした記録と、同じくサハリン出身の浅井タケさんから、ピウスツキが蝋管に録音した歌謡に関して聴き取りした記録を中心に紹介しました。
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【調査報告】 松島トミさんの口承文芸 6 (大谷洋一)
〔要旨〕
大正11(1922)年、北海道の門別町(厚別川流域)で生れ育った松島トミさんが語った口承文芸2編のテキストです。アイヌ語をカタカナとローマ字で記し、その日本語訳を付しています。
1編目の「クモと結婚した白キツネのウウェペケレ」は、神々を苦しめていたクモの女神を幻術で懲らしめてから結婚したという白キツネの体験談です。
2編目の「ポロトを守る神のこのウウェペケ
レ」は、ポロトを守る神が自身の出生のことや北海道に生えているクリの由来などを語ったものです。
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【調査報告】 旭川地方におけるタプカラについて -杉村満さんの伝承より-
(甲地利恵)
〔要旨〕
北海道の旭川市に生まれ育った杉村満さん(1928~2001)に、男性の舞である「タプカラ」についてお話をうかがいました。
この調査報告では、そのインタビュー内容を紹介し解題するとともに、杉村満さんの伝承するタプカラの特徴を手がかりとしながら、既存の研究資料を参照し、タプカラをアイヌ音楽のひとつとして考えるときの情報整理を試みています。
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【調査報告】 V.N.ヴァシーリエフ「エゾおよびサハリン島アイヌ紀行」 (訳:荻原眞子)
〔要旨〕
ロシア共和国サンクトペテルブルグのロシア民族博物館はアイヌ民族資料を約2,800点収蔵しています。これは海外の博物館が所蔵する資料としては最大のものです。その資料のうち約8割はV.N.ヴァシーリエフが1912年の夏に収集のしたものです。そのヴァシーリエフが収集のためロシアを出発してから帰国までの間、特に東京での見聞、北海道と南サハリンの資料収集の状況、当時のアイヌの生活などを記録した旅行記です。
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【調査報告】 島根県美保関町の北方民族関係資料
(平野芳英・山崎幸治・北原次郎太)
〔要旨〕
島根県の北部に位置する八束郡美保関町で、平成15年11月に行った北前交易関係資料の調査から、団扇太鼓、撥、毛皮(アザラシ、クマ)、ガラス片を象眼した鞘などの北方民族関係資料を紹介しています。北前船航路に沿った調査で、アイヌやニブヒなど北方民族資料の新発見の経緯や、この地域の漆器などについても報告しています。
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